兵庫県たつの市立龍野小学校
教頭 石堂裕
読解力は、時代が変わっても変わることのない身に付けさせたい力だと思います。そこで身近な情報を得ることができる朝日小学生新聞の「天声こども語」を用いた実践をしてみました。「天声こども語」は374文字で書かれた文章のみで表されています。今回は3年生以上で行った実践のうち、3年生の事例を紹介します。
小学校から徒歩50mほどの距離に童謡「赤とんぼ」の作詞者である三木露風の生家がある本校の3年生は、10月上旬からの総合的な学習の時間に「アキアカネ」を軸に据えた学習をすることになっているので、「虫の声」をテーマにした「天声こども語」について、昨年度の記事と今年の記事の二つを用意しました(資料1)。
この時間の問いは、「どちらが心にのこるかな」です。記事1では「虫の鳴き声」から虫の生態に関わることを知らせ、記事2では、「虫の鳴き声」の記述が今と昔(平安時代)とでは異なっていたことを知らせています。目標は、記事を選択した理由を内容にふれながら他者に伝えることです。そのためには、記事の内容を理解する必要があります。
子どもたちは、資料2に示すように、協働学習ツールに添付された二つの記事を読み、自分自身の選択した記事についてその理由を記述しました。書き出された理由を読むと、例えば、記事1を選択した子の場合だと、「敵のオスがなわばりにくるとキリキリキリと鳴くと初めて知ったから」といった具体的な箇所にふれた記述もあれば、「コオロギなど虫の記事がくわしく書いてあるからです」のようなふれていない記述もあります。
そこで、記事にある文や言葉をもとに、個別に深める時間を設けました。写真1に示す子どもは、NHK for Schoolの「ものすごい図鑑」を視聴し、鳴き声の仕組みを調べています。このような自分のニーズに応じた追究の時間は、自らの読解を助ける個別最適な学びにつながる時間です。
子どもたちの学びの素敵なところは、「あった!」といった一人のつぶやきに、同じ記事について深める子が数名集まり、情報共有できることです。あっという間に教室のあちらこちらで情報共有の場が設けられました。この様子は、個別最適な学びを孤立化させない協働的な学びの場ともいえます。この学びの場では、見つけたサイトの情報共有だけでなく、「天声こども語」をもう一度読み直す子が出てきます。要するに、最初は必要感に迫られず読んでいたのが、読む必然性が芽生え読み直しているのです。新たに関心をもった文に関する情報を集め、それを起点に友だちとの対話をすることを通して記事の内容への理解が深まってくるのです。
この段階では、自分の選択した記事についての活動になっていますが、その後、全体での意見交流の場をもちます。この場が自分自身では選択していない記事のよさを知る機会になります。個別の調査で分かったことと記述内容を関連付ける過程を経て、再度二つの記事を読み比べると、資料3に示すように選択した記事が変わる場合もでてきます。大切なことは選択をした記事の根拠が文の内容に即して具体的になっているかどうかです。
374文字の活字のみで記された「天声こども語」。その文を自分のニーズに合わせて情報を関連付けたり、他者の考えを聞いたりする学びの過程が、子ども自身の読解を確かなものにするのです。
つづく
プロフィール
兵庫県たつの市立龍野小学校
教頭 石堂裕
なぜ、小学校の先生に?
身近な家族が教員だったため、小学生のころから「先生になる」と決めていました。小学校に決めたのは、教育実習での1年生との出会いです。授業の難しさを実感して、「もっと究めたい」と思ったことが、今も私自身を支えています。
my belief
「ピンチがチャンス!」
授業では、「ま(待つ)つ(つなげる)の(のせる)き(気付かせる)みと(認める)」