兵庫県たつの市立龍野小学校
教頭 石堂裕
夏休みは、子どもたちが参加できるイベントが各地で行われています。たつの市でも、たつの市立龍野歴史文化資料館が、脇坂家龍野入封350年を記念して、夏休みキッズミュージアム「お殿様の台所事情」を開催しています(7月23日から9月4日)。その目玉となる「ミュージアムトーク(7月31日開催)」には、午前・午後とも定員を上回る子どもたちが集まりました。
私は、勤務校と資料館が徒歩5分以内ということもあり、このミュージアムトークのファシリテートを担いました。その際、江戸時代ということもあり、イメージしたのが「寺小屋的な社会科の授業」です。
授業設計をしていると、その魅力にわくわくしました。たとえば、「小学1年生から中学生までの異学年の学習者が同じ空間で学ぶこと」や「実施場所が資料館で、さらに当館の学芸員や市の財政課職員とのティームティーチング」などが挙げられます。まさに、市の歴史的事実について、本物にふれながら異学年の学習者が学び合う授業をデザインしているのです。
さて、学習指導要領(平成29年告示)では、社会科の教科固有の見方・考え方として「社会的な見方・考え方を働かせ、課題を追究したり解決したりする活動を通して」とあります。この「社会的な見方・考え方」は、小学校社会科、中学校社会科(各分野)の特質に応じた見方・考え方の総称です。そのため、小学校では「社会的事象の見方・考え方を働かせ、位置や空間的な広がり、時期や時間の経過、事象や人々の相互関係などに着目して、社会的事象を捉え、比較・分類したり総合したり、地域の人々や国民の生活と関連付けたりすること」をめざします(下線は筆者が強調)。
この授業では、江戸時代と現在とを比較しながら貨幣や税について学ぶのですが、授業者は、学習者の既有の知識が異なることを意識しておく必要があります。そのため、私は、導入では低学年の子も興味をもてるようにクイズ形式をとり入れました。江戸時代は前期、中期、後期で貨幣価値が異なることから、みんなで1700年ごろへのタイムスリップを確認したのち、最初の問題(図1)を示しました。
「石高」は6年生で学習する知識ですが、まだ今の時期だと学習していないため、ほとんどの子が知らないことです。そうなると問題に使用する用語にも配慮が必要です。そこで、お城と共通する「石垣」、「米」、「人」ならみんながイメージしやすいと考えました。実際の授業では、まず参加者全員が①から③のいずれかを予想した後で「この資料館の中に、ヒントがかくれているよ。探してきてごらん」と指示しました。あらかじめ館内にかくしておいた「お米5kg」(実物)を見つける活動を入れたのです。年貢という既有の知識がない子でも、「お米」と「1石」が結び付きやすくなることを期待しました。
おかげで、「米1石は150kg」をもとに資料館のちらしにある「龍野のお殿様には、現在のお金の価値でいうと、1年間におよそ35億円の収入があったこと」(図2)を考える際も図3のシートを見せながら、「みんなが見つけたこのお米5kgが3300円とするよ」と話すことで、低学年の子であっても関心は持続したようです。
また写真2のように、高学年の子が低学年の子の学びをサポートしたことも、低学年の子が理解しやすくなった要因だと思います。
その後、お殿様の台所事情はどうだったのかを考える場面では、一人ひとりが予想を立てた後で、代表者によるロールプレイで進めました。お殿様役の子におもちゃのお金1枚1億円を35枚渡しておきます。その時はお金持ち気分の反応だったのが、資料館が作成した資料から人件費が半分かかったことを読み取り17枚支払ったり、参勤交代の大名行列にかかった費用が5億円程度だったことを学芸員さんから聞き、5枚ずつ支払ったりする模擬経験をしていくと、「お金がたりない……」と実感できました。そこで、学芸員さんから、藩札の話や特産物(龍野藩なら醤油)の話を聞き、藩の対策も知ることができました。
また、財政課の職員さんからは、「資料(図4)のピンクのところにあるように、今は国からもお金をもらっているんだよ」と具体的な説明を受けました。すると、子どもたちからは、「昔は、お金を出すことばかりだったのに。今とは違う」といったつぶやきが聞こえてきました。「集めたお金は、たとえばみんなの医療費を0円にすることに役立てているよ」といった話からも「なるほど」と感想をもった子も少なくありませんでした。
図5に示すように、藩札にある「かくし文字」を見つけてその役割を考えたり、「天保通宝」の裏にある「當百」と書かなければならなかったのかを考えたりする時間は、子どもたちにとってわくわくする時間だったように思います。その理由に、授業が始まる前に、「『なるほど』は赤いふせん、『疑問』は青いふせん、『おもしろい』は黄色のふせんにメモしようね」と伝えていたところ、写真3のようにふせんに書き出す子が多くいたからです。
子どもたちは、みんなで学習した後、個人での成果物づくりをしました。自分自身が赤いふせんに書き出した「なるほど」と思ったことを画用紙(四つ切)にまとめていきます。獲得した情報を再構成する過程で知識として定着させる時間です。このときも少しでも分からないことがあれば、学芸員さんや財政課の職員さんに質問をしながら正しく理解しようとしていました(写真4)。
資料館の展示物(たとえば両替商が用いた天秤)を再度確認する子もいました。身近に本物があることが子どもたちの整理する意欲をさらに高めたのではないでしょうか。その証が子どもたちが一人ひとりが作成した作品です。写真5のように、低学年の子も高学年に負けないぐらいの作品に仕上げました。「寺小屋的な社会科の授業」は1時間でしたが、子どもたちの学ぶ力ってすごいです。それを実感できる充実した時間になりました。
参考文献:『小学校学習指導要領(平成29 年告示)解説 社会編』文部科学省 pp.19-20
つづく
プロフィール
兵庫県たつの市立龍野小学校
教頭 石堂裕
なぜ、小学校の先生に?
身近な家族が教員だったため、小学生のころから「先生になる」と決めていました。小学校に決めたのは、教育実習での1年生との出会いです。授業の難しさを実感して、「もっと究めたい」と思ったことが、今も私自身を支えています。
my belief
「ピンチがチャンス!」
授業では、「ま(待つ)つ(つなげる)の(のせる)き(気付かせる)みと(認める)」