東京都八王子市立由井第三小学校
主任教諭 八木美香
本校では、毎月1回「心の日」を設定しています。朝学習の時間帯(10分間)に全校共通のテーマで話し合うという取り組みです。昨年度の三学期のテーマは、「笑顔」「家族」「感謝」でした。最終回を「自分の周りの人への感謝」としていて、学年のまとめをねらいとしました。
6学年の私の学級では、「感謝」のテーマを掲げたところ、1月の「笑顔」、2月の「家族」と結び付けて、「友だちや家族の笑顔に支えられた。感謝したい」という内容が出され、きれいにまとまっていきました。そうです。きれいに、です。それを予想していた私は、まとまってきたところで介入しました。
「本音のところでは、そう言い切れないこともあるんじゃないの?」
その発言で、子どもたちの顔が途端に「?」マークと「!」マークだらけになりました。そこでおどけた表情のAくんが「ま、本音のところじゃ、腹立つことの方が多かったりしてね」と言うと、学級全体で大爆笑です。
それをきっかけに、子どもたちが次々と発言し始めます。
「兄弟が怒られてると思っていたら、いつの間にか巻き込まれていたことある。なんで、私が?」
「よくある、よくある」
「とばっちり」
「とばっちりどころか、なぜか、うんと怒られているのがぼくになっちゃうこともあったよ。むかつく!」
そのタイミングで私から「よーし。では、今度、時間をとって、本音トーク大会してみよう」と提案すると、子どもたちは「やろう! やろう!」と大盛り上がりです。
成長ファイルの作成
さて、その少し前。卒業を控えた時期に、6年生の成長を見守ってきた先生たちからの“プレゼント”がありました。
保健の先生からは、1年生から6年生までの身長の変化を表したグラフ付きのお手紙です。そのお手紙にかけられたリボンは、6年間で伸びた長さ分になっていました。そのプレゼントに子どもたちは大感激です。みんなが頭のてっぺんからそのリボンを垂らして、1年生の頃の自分の身長を再現しているほほえましい光景が見られました。
図工の先生からは、子どもたちが課題として描いた6年間使ったランドセルの絵です。中には、ランドセルへの思いをつづった作品もありました。
音楽の先生から渡されたのは、コロナで大変だったこの1年間に、たくさん取り組んだ合奏についての振り返り学習をまとめたカードです。
そこで、これらの作品を大きな画用紙を台紙にし「成長ファイル」と名付けて、各自、整理していくことにしました。そこには子どもたちが「成長した」と実感できる作品、「未来の自分、すてきな大人」を想像できる作品がまとめられていきました。
その中に、薬物乱用防止教室の学習カードもありました。本校では、養護教諭と学校薬剤師が準備をして、「保健」の学習として取り組みました。ちなみに学校薬剤師のB先生は、小学校5年生と中学生のお子さんの親御さんでもありました。
こうして「成長ファイル」の制作が着々と進む中で出てきた本音トーク大会。本音トーク大会が1週間後に設定されたところで、自主学習ノートに考えを整理し始める子どもがいたり、本音トーク大会を休み時間の話題にする姿も見られたりするようになりました。子どもたちの会話を聞いていると、「親ってどう思っているんだろう」「私たちがイライラしているのをわかっていて、なんで攻撃してくるんだろう」と、いろいろな疑問が出てきたようです。
担任としては「本音トーク大会」が「愚痴大会」になってしまうことなく、子ども一人ひとりの学びとなって残ってほしいと考えました。そこで、親世代の気持ち(言い分?)を語る代表者として、前述の学校薬剤師のB先生にゲストティーチャーを要請し、打ち合わせを進めていました。
そして「本音トーク大会」の3日前に、子どもたちに「みんなの本音トーク」に対抗して、おうちの人代表選手をお招きしてみましたよ」と予告しました。子どもたちは「えええ!!!」と絶叫します。
「もしかして、私たちのうちの人を呼ぶの?」
「それだと本音トークにならないよー」
そこで私から「そうです。それはわかってますよ。だから、お招きしたのはみんなの知っている薬剤師のB先生です」と伝えると、「おおお!」とあちらこちらから納得の声が聞こえてきます。
「そうだよね。B先生は5年生のお子さんのママさんだったよね?」
「B先生はうちの親とは知り合いじゃないから、大丈夫だ!」
本音トーク大会が一層ヒートアップしていきました。そして、B先生がゲストティーチャーと決まったことで、「本音を言い合おう」という目当てから、B先生を自分の親に見立てて、「親の本音を聞いてみよう」に変わりました。
本音トーク大会当日
本音トーク大会当日、B先生がオンラインで画面の向こうに登場してくれるのは9時45分です。それまでに黒板が整理されました。そしてB先生が登場です。「本音をぶつけてみる」つもりの子どもたちは、どの子もニコニコの表情です。
「兄弟が怒られていたのに……」
「兄ちゃんが先、がまんしなさいって……」
「妹にゆずりなさい。お姉さんでしょって……」
次々に質問を記したホワイトボードを手にカメラの前に立って、話を聞いてもらう子どもたち。話すというよりは、「親代表」に訴えるという様相で、迫力満点の雰囲気でした。
一段落した後にCさんがカメラの前に出てきました。
「私、『白』と言われると、『黒』と言い返しちゃいたくなっちゃうんです。たいして『黒』と思ってなくても『黒』って言いたくなっちゃう。反抗期なんです。きっと。そんな私、どう見えますか」
この質問にB先生は迷うことなく、すぐに答えてくれました。
「小さい頃は、『かわいい。かわいい』って言ってもらえてたでしょ。そうなの、かわいいのよ。でもね、反抗しているあなたのことも、かわいいの」
「…………」
全員がまさに水を打ったようにシーンとしました。担任の私にとっても予想外、予想以上の展開です。そしてDくんが「え……。かわいいの……?」と小さい声でつぶやきました。それに続いてEくんが「かわいいって。そうなのかぁ。そうなると反抗しても意味ない?」と発言。そのときの言い方もとても幸せを感じている優しい言い方でした。そして、その後のお決まりの“大爆笑”も幸せな雰囲気たっぷりです。
B先生に話したくて次々に出てくる子どもたち。次第に質問ではなく、感想だらけになっていきました。
とっても幸せな気分になれた「本音トーク大会」でした。もちろん、そのときの学習まとめのカードは「成長ファイル」につづられて、卒業式の日に卒業証書と一緒に各自持ち帰りました。
つづく
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東京都八王子市立由井第三小学校
主任教諭 八木 美香
なぜ、小学校の先生に?
元々はピアノの勉強をしていました。子どもたちと歌ったり、踊ったりすることが大好き。体を動かすことが大好き。お出かけすることが大好き。工作することも大好き。子ども一人ひとりの「楽しい♪」の表情が何より大好き。
my belief
「楽しい♪」の中に学びあり。